Copyright Junko Yoshikawa 2026
Back to New York, 2005
April 2005
地下鉄の乗り換えは、頭より先に体が覚えていた。二年住んでいた街だから、迷いようがない。それなのに改札を出て最初に思ったのは「懐かしい」ではなくて、「ここはこんなに明るかったか」だった。十六年のあいだに、街のほうが先に変わっていた。
四月のはじめに着いて、月末に帰った。三週間あれば、予定のない日がいくらでもある。だから、当時の友人に会って、住んでいたあたりをただ歩いて、二年いて一度も行かないまま帰国した美術館に、十六年越しでやっと行った。
着いたころ、公園の木は一本残らず裸だった。帰るころには、同じ枝が全部花になっていた。あのころは毎日その下を通っていたはずなのに、ちゃんと見たのは、たぶんこのときがはじめてだ。
01 Midtown
住んでいたころは、上を見て歩くことがなかった。今回はそれをしに来たようなものだ。十ブロック歩くたびに、空の形が変わる。
02 Times Square & Broadway
あのころのこのあたりは、わざわざ避けて歩く場所だった。すっかり様子が変わっていて、少し拍子抜けした。
03 Central Park
着いたころはまだ枝ばかりだった木が、帰るころには花でいっぱいになっていた。三週間しかいないのに、季節がひとつ動いてしまった。
04 New York Botanical Garden
地下鉄と徒歩で、ブロンクスまで。温室のドアを開けた瞬間だけ、季節が半年ぶん先に進んでいた。
05 Museums
二年住んでいて、一度も入らなかった場所がいくつもあった。今回はそこから回ることにした。建物と中庭が、いちばん記憶に残っている。
06 Downtown & Brooklyn
ダウンタウンはブロックごとに言語が変わる。歩いているだけで、国境を何回も越えている気がする。
07 Coney Island & the Ferry
地下鉄に乗っているだけで、いつの間にか海に着く。同じ切符で行けるのが、この街のいいところだった。
08 Faces of the City
十六年前の記憶は、だいたいこういう景色でできていた。マンハッタンの南の端から北の端まで、あのころと見くらべながら、ぶらぶら歩く。
“One belongs to New York instantly, one belongs to it as much in five minutes as in five years.”E. B. White, Here Is New York
五分でも五年でも、この街の一員になるのは同じことだ、と書いた人がいる。二年住んで、十六年あけて、三週間帰ってみて、その意味が少しわかった。もう住人ではないけれど、たぶん、よそ者でもない。